飯田隆史【無財の七施-7 〜房舎施(ぼうしゃせ)〜】

こんにちは

飯田隆史です。


お釈迦様は、財が無くともできる布施行を

無財の七施として教えられています。

7つ目は「房舎施(ぼうしゃせ)」です。

求める人、訪ねて来る人があれば

一宿一飯の施しを与え、その労をねぎらう親切ですね。


震災により家を失った被災者の方々に、

自治体が県営住宅などを無償提供される申し出が

相次いでいます。

個人でも、別荘を無償提供される方がおられるようですね。


「能」の題材の一つでもある「鉢木」という話があります。

「いざ鎌倉」は有名な言葉ですが、その際に語り継がれるお話です。

少し長くなりますが、紹介しますね。

ある僧が、上野国佐野荘(現在の群馬県高崎市)に入った際、

猛吹雪に遭い厳寒に耐えながらも進んでいったところ、

一軒の小さな民家を見つけました。

扉を開けると、そこには貧しい夫婦が住んでいた。

「私は諸国を旅している者ですが、この大吹雪に見舞われ、

 道を見失ってしまいました。

 突然やって来て申し訳ないが、一夜だけでも結構です。

 泊めて頂くわけにはいきませんか」

「それはお困りでしょう。

 十分にお泊めできるほど広くもない狭い家ですが、

 どうぞ中にお入り下さい。

 外は大変な寒さでしょう。さあ、こちらの火のほうへ」

身も心も凍り付いていた僧は、手を合わせて礼を言った。

女房が粟の雑炊を一杯持ってきたが、

何の具も入っていない、質素な粟飯でした。


「見てのとおり、私共はとても貧乏な暮らしをしております。

 こんなものしかお出しできませんが、よろしければ・・」

「何をおっしゃる。何よりのご馳走です。かたじけない」

すると、女房が申し訳ない顔をしながら主人に耳打ちした。

「実は…」「なに、薪を切らしてしまったのか…」


囲炉裏にくべる薪が底をついてしまったのだという。

主人は立ち上がり、手斧を持って、

土間に並べられた三鉢の盆栽の前に立った。


「いけません! 見たところ、その梅、桜、松の鉢の木は、

 ご主人が長年大切に手がけてこられた逸品と見た。

 それをお切りになるなど、正気の沙汰ではない」

「いえ。暮らし貧しいと言えど、心だけは豊かでいようと、

 この鉢の木を美しく育ててまいりました。

 しかし、困っている方に精一杯のおもてなしをするのもまた、

 心の豊かさの一つと言えましょう。

 きっと、この梅も桜も松も、それは本望でありましょう」


僧は心から感動し、主人に尋ねた。

「ご主人、その並ならぬお心遣いといい、

 そして先ほどからの姿勢やお言葉といい、

 実は名のある武士なのではございませんか」


「…お坊様に隠し事はできませんな。お話ししましょう。

 さよう、私は佐野源左衛門常世と申す武士にございます。

 かつて鎌倉幕府より拝領した佐野荘を治めていましたが、

 一族郎党に領地を横領され、命を狙われるようになり、

 山奥のこの家に隠れ住むようになったのです」

「…そうでしたか。それはお気の毒なことです」

「いえ、同情は無用ですぞ」

「この身落ちぶれたるとも、私は武士にございます。

 鎌倉幕府より頂いた大恩は忘れてはおりませぬ。

 甲冑も刀も常に磨き、外には馬も一頭繋いでおります。

 もし幕府より急ぎの召集があったとしても、

 いざ鎌倉へと馳せ参じ、命を懸ける所存にございます」

旅の僧は、佐野源左衛門の清廉な心に深く感動しました。

・・・・・・

しばらくのち、鎌倉幕府から布令があり、

全国の御家人が召集されました。

「この中に、佐野源左衛門常世という者はおるか」

「はっ、私でございます」

地に膝を付き、頭を下げた佐野源左衛門は、

顔を上げた時、思わず大声を出した。

「あなた様は…!」

「覚えておるか、佐野常世


猛吹雪の日に佐野の家を訪れた旅の僧は、

北条時頼だったのです。

驚きを隠せず、佐野源左衛門は再び地に頭を付けた。

時頼は温かく声をかけた。

「佐野。おぬしが語った忠誠心、嘘偽りでは無かったのう。

 見知らぬ者でも精一杯もてなす曇りなき清廉の心、

 どのような境遇にありても、受けし恩に応えんとする
 
 決して忘れぬ忠義の心、

 武士の鑑として実にあっぱれである。

 その忠誠を讃え、佐野の地は佐野源左衛門常世に返そう。

 また、凍える我が身を温めるべく馳走になった梅の鉢の木の返礼として、

 加賀国の梅田、桜の鉢の木の返礼として、越中国の桜井、

 松の鉢の木の返礼として、上野国の松井田の領地を与える。

 これからも鎌倉のため、尽くしてくれ」

「…佐野源左衛門常世、かしこまってございます」


日本に伝わる「もてなしの心」の根底には

仏教精神があるのかもしれませんね。

私も少しでも心がけ実践したいと思います。


飯田隆